極北の秋

 人の声と飛行機のエンジン音で目が覚めると時計は11時だった。ぐっすりと寝ていた。窓から見る空は青く澄んでいた。昨日オーロラを見た飛行場に行ってみる。あの興奮が嘘のように静か。黄葉がちょうどピークを迎え一番いい時に来たみたいだ。

軽い食事を取りネイチャー・ウオーキングに参加する。犬ぞりコースになっているトレイルを歩きながら、森を見る。この辺りの植生は、広葉樹はシラカバとアスペン、針葉樹はスプルス(トウヒ)あとは地衣類のみと非常にシンプル。北海道の森は、結構にぎやかなんだと思った。

今年はブルーベリーが豊作だったそうだ。途中でクランベリーをほおばる。アラスカの夏の恵みが口に広がる。ビーバーが作ったダムや木を切り倒した後を見てながら沼を一周するコース。、沼に続くムースの獣道などいろいろ目に入って来る。もっと時間が欲しかった。それにしても空が綺麗な秋晴れだった。

犬ぞり

ネイチャーウォーキングが終盤に差し掛かるとたくさんの犬の声が聞こえる。マッシャー(犬ぞり使い)、ビル・カターが飼っている100匹ほどの犬たちだ。アラスカでは1973年からアンカレッジとノームの1049マイルを駈ける世界最長の犬ぞりレース、アイディタロッドレースが行われている。これは日本で言うと青森から山口まで距離になる。
 ビルは自分で育て訓練してる犬たちを紹介し、子犬たち、犬ぞりレースの装備など説明してくれた。ビルはもう何回もこのレースを走っている。

説明の合間に紹介されたリーダー犬ロンズを撫でてみる。マイナス40℃を超える極寒の中、ブリザードの吹く中、まさに大自然の真っただ中を駆け抜けてきた犬がまさ目の前にいる。「お前はどんな景色を見てきたんだ?」犬語が分かればゆっくり旅の話を聞きたかった。

 
この日、昼間すっきり晴れていた空は、うっすらと雲がかかってしまった。 夜の12時頃、かなり薄いオーロラが現れたが数分で消えてしまった。あきらめてすぐ寝てしまった。

アラスカの原野を飛ぶ

 翌日、小雨が降る中,チェナリゾートを後にしフェアバンクス空港にむけて移動する。
空港で重量検査を受け小型飛行機に乗り込む。飛行機は短い滑走でふわり浮き上がり,北に向かう。黄葉まっただ中の市街地、きれいな町並みが眼下に広がる。
市街地はすぐに丘陵地帯に変わり、家がなくなった。人工物として見えるのは、一本の道ダルトンハイウェイと銀色のライン、アラスカパイプラインだけ。



パイプラインは3年の歳月をかけ建設され、北極海のプルドー・ベイから南の不凍港バルディーズに至る全長1280キロ。現在も利用されている人口構造物としては世界一!(万里の長城が一番長いが遺物)。
 山を越え谷を超え約30分、原野の中を堂々と流れる大河が見えてきた。

カナダのユーコン準州からアラスカの原野を流れベーリング海に注ぐ全長3185 キロの大河。
それがユーコンリバー!この川に架かる橋はわずか二つ。灰色の雲間から太陽の光が射し始めた。グッドタイミング! 川面が光る。水は蛇行し本流から切り離され沼となりやがて乾燥してツンドラ一部と化す。日本の川が忘れてしまった風景がここに存在していた。

 飛行機はすぐに山岳地帯に入り、谷筋に沿って飛んで行く。冬風景が広がっていた。